ヘブンリー・ブルーZ
著者:HOCT2001


 天気は快晴。9月半ばといったところで、白萩が綺麗に咲いている。暦上は秋というくくりだが、まだまだ気温も下がらず秋だということを実感できない。
部屋の中を見渡してみると、サーフボードが2枚並んで壁によりかけてある。ひとつは今まで使ってきたもの、もうひとつは自分で削ったものだ。
大会でどちらにしようか、実はまだきめていない。安定性を求めるなら前者、より自分にフィットしているものとなれば後者か。
それにしても大会当日になっても、お大会で使うボードをきめていないなんて俺の優柔不断さも気が入ったものだ。さて、どちらにしよう。

 自分で削ったほうはおぼれたことがトラウマとなったのかなかなか大技が出せない。一方、昔から使ってきたほうはワックスののりは悪いが、かなりの高難度の技を連続して繰り出せる。
優勝を狙うなら、今まで使ってきたほうだよな。よしきめた、今日の大会は今まで使ってきたやつで波に乗ろう。

 そうして、電車を乗り継いで1時間半かけて湘南に着いたのだが、もう電車移動でへとへとだ。こうなら、伯父さんに車でつれてきてもらったほうがよかったのかもしれない。
そして、会場を見ると、何?こんな小さい大会なのに人がかなり集まってる。小森さんや日向さんを探すのが大変じゃないか。まぁ、何でこんなに混んでいるかを考えてもしょうがない。
小森さんと日生さんを探そう。と、思ったところで、

「よう、和樹」
「い、飯田、何でお前がこんなとこにいるんだよ」
「いやー、なんかさ、小森さんが応援は多いほうがいいから飯田君や桜井君も来ない、っていわれたんでな」

 ということは、桜井も…

「和樹、邪魔しちゃ悪いとは思ったんだが、熱心に誘われたら断れなくてさ」
「桜井…」

 何?やっぱりこれは好感度が上がったんじゃなくて普通にただのお礼?
ここでいい演技を見せて、小森さんにしろ日生さんにしろどちらかと恋人同士になって、飯田や桜井に『お前らも彼女早く作れよ』って言おうと思ったのが妄想になってしまったのか。
ガッテム!!!!
まぁ、いいさ。ここでいい演技を見せたら好感度が上がるのは間違いないのだからな。ん、なんか混雑していた人とがモーゼの出エジプト記みたいに左右に分かれていくな。
それで、分かれた人の中を歩いているのは『山本 光秀』?
あの超高校級のサーファーが何でこんな小さな大会に?
疑問は尽きないがはっきりわかったことがある。今日の大会は『絶対』優勝できない。『絶対』に、だ。

 人の波が静まったところで、小森さんが聞いてくる。

「さっき雑踏の中を歩いてきた人って誰なの?有名人?」
「こっちの世界でこいつの名前を知らないやつはモグリってまで言われてるやつで、名前は山本 光秀。国内外の大会で高校生として常にトップに立っているやつさ。正直言ってなんでこんなに小さな大会に出ているのかはわからないよ」

 今度は日生さんが話しかけてくる。

「ということは、優勝候補?勝てるの泉君?」
「優勝候補も何も、あいつの優勝でこの大会は終わりさ。俺が200%の力を出したとしても絶対に勝てない」
「勝てない、勝てないってネガティブなこと言わない。もしかしたらミスだってするかもしれないし、泉君のときに絶好の波がくる可能性だってあるでしょ」
「まぁ、それもそうだね」

 と、苦笑した。

「じゃぁ、ちょっとウェットスーツ着てくるわ。演技をする順番が結構早いからね」

 そういって更衣室へと向かった。そこであいつに勝てるような演技をイメージトレーニングする意味でも。
さっきの日生さんの言葉ではないがミスを絶対にしない人はいない。
そしてあいつが演技をするときに貧弱な波しかやってこないこともある。あらゆる要素、運やタイミング、それらも身につけて『勝ち』に行くんだ。
よし、俺は勝つ、応援してくれているみんなのためにも。見てろよ、山本。こっちだって血反吐はいて練習してるんだ。天才に一般人がどれだけできるか見てろ!!

 さて、俺の番だ。技の組み立てはもう完全に頭に入っている。さて、セットを見てみよう。今日はオフセットではないからなかなかいい波が来ている。
俺は手前から見て3番目のセットの2番目の並に目をつけた。形といい、高さといいかなりいい波だ。波に乗るためにパドリングを開始する。
そして、狙いをつけた並にパドリングで思いっきり加速をつけテイク オフする。
そこからは俺の独壇場だ。ローラーコースター(波の上に上がって、それから波の下に戻ってくる技)も綺麗に決まった。これは高得点だろ。
そしてボトムターンで波の端へターンした後、カットバックして波のパワーのある部分まで戻ってくる。
今のところは順調だ。減点対象は見つからない。このあとエアリアルをきめて俺の演技は終了だ。
そうしてエアリアルも綺麗に決まったところで波は崩れた。

 さて、演技も終わったことだし、小森さんたちのところへ行こう。
俺が小森さんたちの前へ出た瞬間、小森さんが、

「泉君、凄いよぉ。最後のあの空中に飛ぶ技はなんていうの?興味あるなぁ」
「ああ、あれは『エアリアル』っていって結構高難易度な技。決まってよかったよ。
そこに日生さんが会話に入る。
「いやー、サーフィンなんて始めてみたけど凄いねー。波の魔術師(マジシャン・ザ・ウェーブ)?そんな感じがするよ」
「波の魔術師!!いいこというね日生さん。陸上部なのになかなか詩人だね」
「鏡子に付き合わされて人並みには本を読んでいるの、私は」
すると、小森さんは、
「楓、とりあえず人並みに文芸に関して知識は持っておきたいから紹介して、って言ったのあなたでしょう」
と、小森さんは笑った。
「鏡子ぉぉ、言わなくていいことまで言わない」

そこに飯田が入ってきた。
「演技が終わったら男は無視かよ。友達がいがないやつだなぁ」
「それはすまん。だがお前も男より女の子を優先するだろ?」
「まぁ、それはそうだがまったくの無視が気にくわん」
「まったくの無視じゃないぞ、視界に入らなかっただけだ」
「無視よりも酷ぇじゃん」
「ま、気にするな。実際今ちゃんと付き合ってるんだしな」
「そりゃそうと、桜井はどこだ?」

「桜井君は応援が終わったらすぐ帰ったよー」
と、日生さんが教えてくれた。
「何でも邪魔者は帰るとかいって」
今度は小森さんが答えてくれた。

 ふうーん、なかなか友人思いなとこがあるじゃないか。まぁ、基本的にあいつはかなり善人だからな。彼女がいないのは特定の女子と付き合うのを嫌ってだろう。
で、飯田のバカは残った、と。コイツは正真正銘のバカかイヤガラセばかりやってくれる。桜井を見習えっちゅーの。もてないのもわかるってもんだぜ。

 それからは小森さんをはじめとした3人で駄弁りながら結果を待った。正直、頂点にはいけないと思う。山本の演技を見て思った。だが表彰台は十分にいける位置だと思う。
そして、電光掲示板に順位が発表される。

 3位 徳田 茂

 2位 泉 和樹

 1位 山本 光秀

 よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 山本に勝てなかったことは悔しいがそれでも2位に食いつくことができた。ここで、この結果を残せたから今度はもっとレベルの高い試合にも出られるだろう。
そこでも今の演技を続けていけたらプロになるという夢も現実味をおびてくる。そして何が嬉しいいかって、

「やった、やったよ泉君!!」
「泉君、本当にすごいんだぁ、みなおしちゃったよ」

 と、小森さんと日生さんが抱き合って喜んでくれていることだ。
頑張ったかいはあった。努力は結ばれないんじゃないことも証明できた。まぁ、山本には負けたが。あいつは特別だ、波に愛されている男といっても過言じゃない。

 よし、大会も残るは表彰式のみ。そしてそこで俺は、表彰台に上るのだ。あぁ、テンションが高くなっていくのが自分でもわかるぜ。

 そして表彰式の時間となった。入賞者から順に表彰状が渡されていく。そして、俺を含むトップスリーは表彰台へと上る。3位から順にメダルをかけられていく。
とうとう俺がメダルを渡される番になった。ガチガチになりながらもメダルを首にかける。そうして、山本にはトロフィーが渡され解散となった。

小森さんたちのところへ行くと、

「えへへへぇ」
と妙にニヤニヤしながら近づいてくる。

 小森さんは後ろで手を組むかなんかをしてる。
そうして、はい、といってわたされたそれは…綺麗な花束だった。
カスミ草がきれいで、薔薇がとてもカラフルで観ていると感慨深い気持ちになった。

「鏡子が、泉君なら表彰台に上るよ、って言うから買ってきたんだ」
「んもう、楓、余計なことは言わなくていいの」

 感想から言わせていただきます。

「二人ともありがとう。最高だよ」

すると、日生さんは、

「お礼を言うなら鏡子にね」

といった。

「ありがとう、小森さん。今日のことは絶対忘れないよ」
「えへへ、どうも。これからも機会があったら応援へいくね」
「そうしてくれると力がでるよ、これからもよろしくね」

 あれ?飯田は?ま、いいか。

 そうしてみんなで八王子まで帰ったのだった。

〜ヘブンリー・ブルー第一章・完〜



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